情報通信政策研究
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寄稿論文
ネットワーク中立性規制の現代的課題
-米国とEUの現状をふまえてー
寺田 麻佑
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2020 年 4 巻 2 号 p. 55-73

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Abstract

ネットワーク中立性に関する規制は各国で異なるが、日本においては、共同規制的なアプローチが採用されることがネットワーク中立性に関する研究会等で確認され、現在に至るまで、モニタリングや指針の作成をマルチステークホルダープロセスで行ってきている現状にある。米国においては、ネットワーク中立性規制がオバマ政権で強化され、トランプ政権下においては緩和され、バイデン政権で新たに規制強化される可能性が高くなっている。EUにおいては、ネットワーク中立性の維持が重要な課題とされ、特にゼロレーティングサービスについても厳しい欧州司法裁判所の判決が出ている。

本稿は、ネットワーク中立性規制に関連した米国の現状とEUの規制の展開をみた上で、ネットワーク中立性の維持は大事であるが、それに対するアプローチは各国で異なっていてもよいことを確認している。また、各国とも規制の背景事情が異なり、日本においては、通信の秘密という制約があるために、それほど問題となってきていないこと、かかる規制の現状はユニークだということもできるが、このような規制体系のうち、有効なものは国際的な議論の遡上に乗せることも可能ではないかということを提案している。

すなわち、ネットワーク中立性の問題を考えるにあたっては、これまで検討されてきた我が国の原則だけに拘泥する必要はないが、インターネットへのアクセスを維持することが、なによりも、民主主義の基礎を支える言論の自由にもかかわる重要な問題であることを常に意識して検討を進めていく必要がある。この観点からは、国際社会に対してインターネットへのアクセスを保障することの重要性を、日本において検討するネットワーク中立性規制の方向性とともに国際的に発信していくことも重要である。

また、ネットワーク中立性問題と関連して、プラットフォーマーに対する規制をどうするのかといった新たな問題も生じている。これらについては、ネットワーク中立性の重要性と合わせて引き続き考えていく必要がある。

Translated Abstract

Regulations on network neutrality differ from country to country, but in Japan, it was confirmed by the Study Group on Network Neutrality held by the Ministry of Internal Affairs that a co-regulation approach would be adopted, and up to the present, monitoring and formulation of guidelines on network neutrality have been conducted through the multi-stakeholder process. In the United States, network neutrality regulations were strengthened under the Obama administration, relaxed under the Trump administration, and are likely to be strengthened under the Biden administration. On the other hand, maintaining network neutrality has been recognized as an important issue in the EU, and the ruling of the European Court of Justice has been particularly severe for zero rating services.

This paper examines the current situation in the United States and the development of regulations in the EU in relation to network neutrality regulations, and confirms that it is important to maintain network neutrality, but that approaches to it may differ from country to country. In addition, the background of the regulations varies from country to country, and it is possible to say that there are not so many problems in Japan due to the strict restriction of the secrecy of communications, and that the current situation of such network neutrality regulations can be described as unique, and it is proposed that such co-regulation system may be put on to the international level for discussions as an example. In other words, when considering the issue of network neutrality, it is not necessary to stick to the principles of former traditions that have been considered, but it is necessary to proceed with the examination with the awareness that maintaining access to the Internet is, above all, an important issue related to the freedom of speech that underpins democracy. From this perspective, it is also important to communicate internationally the importance of guaranteeing access to the Internet to the international community, together with the direction of network neutrality regulations to be considered in Japan.

In the context of the network neutrality issue, there are also new issues, such as how to regulate the platform. These issues need to be considered together with the importance of network neutrality.

1.はじめに―ネットワーク中立性の検討の必要性―

今や、インターネットへの接続が、重要な生活インフラの一部となっている。また、コロナ禍の中において、インターネットへの接続が、他者との様々なつながりを維持する上でも重要となり、安定したインターネット接続の維持が様々な意味において重要な課題となっている2。特に、インターネット接続の安定性という際に問題となるのは、インターネット接続の通信速度の維持である。最近は通信量が契約で規定された量を上回った場合に通信速度を下げるといったサービスが多く提供されていることからも分かるように、インターネットに接続できた場合に問題となるのは、利用していて支障のない通信回線速度であり、そして通信できるデータ容量である。もっとも、YouTubeを代表とする動画閲覧・配信サイト・サービス等の普及により、最近では動画を大量に見るといった形で通信量を短期間に大幅に消化するといった利用形態も増え、インターネット上のトラフィックの量は過去数年、毎年2割から4割増加する状況であった3

また、サービスの提供媒体の増加や通信設備の充実化があいまって生じたインターネット上の通信量の急増に伴い4、ネットワーク事業者からは、ネットワークに負担をかけるビジネスを提供している事業者に対する負担の提供を求めることが認められるべきであるといった議論がなされ始めるようになった5。しかし、ネットワークのインフラストラクチャーを提供する事業者は、ネットワーク上で提供されている内容について、干渉することができないのではないのか、ということが問題となる。インターネットへの接続は様々なサービスやモノにとって―特にIoT機器などの登場も目覚ましいものがある―非常に重要となってきている現在、本来ならば自由にアクセスできる(た)はずのインターネット上のコンテンツに人々が平等にアクセスすることができる状況を維持することや、そういった状況をどのように保っていくべきなのか、といったことが問題となっている。

インターネットの中立性とは、一般的には、「インターネット上を流通するさまざまなトラフィックの『公平な』取扱いの保証」といった意味で考えられている6。また、ネットワーク中立性の提唱者のTim Wu教授によれば、ネットワークの中立性(ネット中立性ともいう)は、ネットワークの提供者(アクセスの提供者やネットワーク事業者)が、すべてのインターネットトラフィックを平等に取り扱うこととされている7。このネットワーク中立性について、現在、世界中で検討が進められている8

米国オバマ政権下においては、ネットワーク中立性に関し、ネットワーク中立性の維持を重要視してルール化し、ネット上のコンテンツをいわば公共財として平等に扱うことが必要とされていた9。しかし、米国においては、トランプ政権への政権交代10後、2017年12月に米連邦通信委員会(Federal Communications Commission : FCC)がネットワーク中立性に関する規制の撤廃を決定したことが問題となった11。すなわち、トランプ政権下におけるFCCの決定の背景には、民主党政権であったオバマ政権から共和党政権であるトランプ政権に変わったという政治的事情も背景にあるということができるが、法学的には、規制の変遷とその影響をみておくことが必要であろう。

さらに、その後、トランプ大統領から現在のバイデン大統領になり、ネットワーク中立性規制は規制撤廃を覆し、新たに規制が制定されることとなる模様である。つまり、FCC委員も大幅に入れ替えられている。このような状況についても、改めて見ておく必要がある。

これらについては、我が国に引き直して、ネットワーク中立性やそれにまつわる問題がどのように引き起こされ、どのようにすれば防止できるのかを考えるのかという観点からも重要である。

本稿においては、ネットワーク中立性を巡る日本における検討状況や現状を確認した後、米国におけるネットワーク中立性規則の撤廃に至るまでの経緯及びその後の動向、関連するEUの規制をみることによって、ネットワーク中立性を巡る規制の現状と課題に関する検討を行う。

2.日本におけるネットワーク中立性に関する規制の検討

我が国においては、通信の秘密が厳格に憲法上も、そして電気通信事業法上も規定され、保護されているため(憲法21条2項後段、電気通信事業法4条)、電気通信事業者が中立性を保つことに関してそれほど問題となってこなかったとも分析されている12。つまり、憲法上の規定、電気通信事業法4条に加えて同法6条には、電気通信役務に関する不当な差別的取扱いの禁止規定も存在している。これらのことから、日本においては通信を分類することやブロックすることがそもそも難しいと考えられる13

なお、我が国においては、総務省において2005年10月から開催された検討会においてネットワーク中立性に関する検討がなされたほか、その後2006年から2007年にもネットワーク中立性に関する懇談会が開催されて、帯域制御の運用基準に関するガイドラインが公表されたほか、2013年においても、ネットワーク中立性に関する検討会が、それぞれ総務省において開催され、検討がなされてきていた。

2.1.2005年以降のネットワーク中立性に関する検討について

まず、ネットワーク中立性に関係したことを検討した研究会としては、総務省総合通信基盤局において2005年10月から開催されていた「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」(座長:林敏彦放送大学教授)が存在している14。この懇談会は、本格的なIP化時代を展望した競争政策の基本的考え方や、今後の接続・料金政策の在り方についての検討を行うものであった。そして、その中でネットワークの中立性の確保についても議論がなされていた。

そして、特に、ネットワークの中立性については、以下のような結論が示された。利用者の視点から、①利用者がIP網を自由に利用して、コンテンツアプリケーションレイヤーに自由にアクセス可能であること、②利用者が技術基準に適合した端末を、IP網に自由に接続し、端末間の通信を柔軟に行うことが可能であること、③利用者が通信レイヤー(物理網レイヤー・通信サービスレイヤー)及びプラットフォームレイヤーを適正な対価で公平に利用可能であること15、というものである。

つぎに、まさにネットワークの中立性そのものを検討する研究会として、「ネットワークの中立性に関する懇談会」(座長:林敏彦放送大学教授)16が、2006年の11月から2007年9月にかけて総務省において設置・開催されていた17

同懇談会の最終報告書18は、ネットワークの中立性の確保の検討で出てきたネットワークの中立性に関し、利用者の視点から消費者の視点に変えた定義を示している。

具体的には、①消費者が、ネットワーク(IP網)を柔軟に利用して、コンテンツアプリケーションレイヤーに自由にアクセスすることが可能であること、②消費者が、技術基準に合致した端末をネットワーク(IP網)に自由に接続し、端末間の通信を自由に行うことが可能であること、③消費者が、通信レイヤーおよびプラットフォームレイヤーを適切な対価によって、公平に利用することが可能であること、といった3点であり、これらがネットワーク中立性に関する原則として打ち出された。

なお、それらの原則は結局、「ネットワークのコスト負担の公平性」と「ネットワーク利用の公平性」の2つの項目に整理されており、前者を確保する観点からは、「P2Pによるトラフィック分散に関する技術的・社会的な実験の展開、帯域制御に関するガイドラインの策定」等が提言され、後者を確保する観点からは、NTT東西の次世代ネットワークに係る接続ルールの速やかな検討と、ドミナント規制の見直しに向けた具体的検討の着手等が提言された。

その中でも、特に、ネットワークのコスト負担の公平性については、2007年8月に、P2Pネットワーク実験協議会(会長:浅見徹東京大学大学院情報理工学系研究科教授、総務省はオブザーバーとして参加)が設立されている19

また、帯域制御に関するルール策定については、2007年9月に、電気通信事業関連4団体(日本インターネットプロバイダー協会、電気通信事業者協会、テレコムサービス協会、日本ケーブルテレビ連盟)による検討が開始されることとなった。

さらに、これらを受け、2008年の5月には、「帯域制御の運用基準に関するガイドライン検討協議会」によって「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」が公表されている20

その後はしばらくネットワークの中立性に関する検討会は開かれていなかったが、ネットの中立性に関する検討に関するものとしては、2013年11月から2015年7月まで、「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」(座長:相田仁東京大学大学院工学系研究科教授)が総務省において開催されていた。

なお、この研究会は、利用者が適切な情報に基づいて、インターネット接続サービスの契約を行うことが可能な環境を整備することを目的として、実効速度(利用者が実際に利用できる通信速度)等のサービス品質計測等の在り方や必要な方策の検討を行っていた21

このように、日本においては、ネットワークの中立性に関する検討が、それなりに早い時期から様々な観点も含めて進められていた、ということができる。

もっとも、急速にネット上の大容量コンテンツが増加し、トラフィックスピードも格段に速くなっている現在において、改めて、ゼロレーティングの問題も含めて、ネットワーク中立性の問題を今後検討していくべきなのかという問題に、我が国も直面している。このゼロレーティングとは、特定のコンテンツやアプリケーション(例えば、FacebookやTwitterの利用分については課金をしないといった形における)の利用に対して、使用するデータ量に応じた料金を発生させない、データの使用量から除外するサービスのことをいう。

2.2.2018年から2019年における検討

上記のように、ネットワーク上のトラフィックが年々激増している状況があるなど、ネットワークを巡る環境が大きく変化してきていることから、ネットワーク利用及びコスト負担の公平性や透明性確保の在り方等については、2018年10月17日から、ネットワーク利用及びコスト負担の公平性や透明性確保の在り方等について議論、検討するための「ネットワーク中立性に関する研究会」(座長:森川博之東京大学大学院工学系研究科教授)が総務省において開催された22

そして、当該研究会における検討のための問題点や具体的な検討項目についての提案募集が2018年10月になされ23、当該研究会の検討内容には、(1) 電気通信事業者、コンテンツプロバイダ、オンライン・プラットフォーマー、利用者など、関係者間におけるネットワーク利用及びコスト負担の公平性の在り方、(2) 新たなビジネスモデルに適用されるルールの明確化、(3) 利用者に対する情報提供(透明性確保)の在り方、が含まれることとなった。

ネットワーク中立性に関する研究会における中間報告書(案)は2019年2月25日に出され、その後3週間程度のパブリックコメントが行われた24

2.2.1.ネットワーク中立性検討会(2019年)中間報告書の内容

透明性の確保を前提に、柔軟なネットワーク管理が可能となるように、現行の帯域制御ガイドラインが改訂されることとなった(下記図1(報告書案から抜粋)参照)。また、優先制御については、(一定の品質確保を必要とするユースケースが必ずしも明確ではなくルールを定めることは事業活動との関係で問題があるため)継続的に情報収集と調整を行った上で、マルチステークホルダーによる議論の場を総務省に設置、合意形成を進めることとなった25

図1.公平制御の模式図

(出典)総務省「ネットワーク中立性に関する研究会中間報告書(案)」(2019年)図16

2.2.2.ゼロレーティングやスポンサードデータに関して

ゼロレーティングについては、一律禁止ではなく、一定の判断基準を示した上でケースを分析、電気通信事業法等に基づき事後的に対応することとされ、解釈指針が取りまとめられることとなった。この解釈指針に関しては、事業者の提供条件の公平性、適正性を検証した結果を公表するなどの取組を通して透明性を総務省が確保すること、そのため、違反事例や違反に該当しない事例を具体的に明示することとなった。

また、今後の課題として、電気通信事業者とコンテンツ・プラットフォーム事業者の間で紛争が生じた場合は、電気通信紛争処理委員会、総務大臣に対する苦情等意見申出、裁判外ADRなど、苦情申立て制度の検討が必要であることや、通信の秘密の侵害にあたらない要件等について整理が必要であることは引き続きの検討課題となった。(以下図2参照)

図2.ゼロレーティングに関する論点の構図

(出典)総務省「ネットワーク中立性に関する研究会中間報告書(案)」(2019年)図17

2.2.3.モニタリング体制の整備とトラヒックの効率的安定的処理のための体制整備

ネットワーク中立性に関する研究会においては、優先制御が必要なサービスや関連技術の動向について情報収集・調査を行い、「ネットワーク中立性に関するモニタリング会合(仮称)」に情報提供するとともに、必要がある場合、マルチステークホルダーによる議論の場を設置し合意形成を進めることとされた26。具体的には、「帯域制御ガイドライン」及び「ゼロレーティングに関する指針」の順守の状況や、情報公開の状況等を継続的にモニタリングし、必要に応じて事業者等に改善を促す体制(「ネットワーク中立性に関するモニタリング会合(仮称)」が整備される予定となっていた。また、優先制御が必要なサービスや、関連技術の動向については総務省が情報の収集と調査を行い、具体的な必要性が出てきた場合に、「マルチステークホルダー」による議論の場を設置し、合意形成を進めることとされた。

具体的には、帯域制御ガイドラインの見直しとゼロレーティングに関する指針の策定のほか、電気通信市場検証会議の下で、モニタリングが実施されている27

2.2.4.共同規制と国際会議の場への提案

また、上記に見たように、トラヒックの効率的かつ安定的な処理のための体制を整備し、幅広い関係者による協力体制を早期に整備し、ネットワーク逼迫対策の取組を促進するための方策のひとつとして、データセンターの地域分散支援に加えて地域IXやCDN活用に向けた取組支援を行うこととなっていた。

また、研究会の方向性に基づき、マルチステークホルダープロセスで具体的ルールを規範として合意し、共同規制による規律として機能させることと同時に、サイバーフィジカルシステムが世界的な広がりと国境を越えたシステムを有していることから、ネットワーク中立性の確保が自由なデータ流通に不可欠であるとの認識のもと、OECD等の国際会議の場に提案してコンセンサス作りに努めることも明記されていた28

このように、日本におけるネットワーク中立性規制はマルチステークホルダープロセスが協調される形となっており、指針の策定の段階から調整を図ることで、規制の実効性を図ろうとしている点に特徴がある。

3.米国におけるネットワーク中立性に関するインターネット規制

以下においては、米国のネットワーク中立性規制に関する変遷をみることとする。

3.1.規制撤廃までの状況

米国におけるネットワーク中立性規制については、特に、2004年ころから、FCCの委員長がネットワークの自由として、コンテンツへアクセスする自由、アプリケーションを動かす自由、デバイスを装着する自由、サービス・プランの情報を獲得する自由が提唱されていた。そして、その後、ネットワーク中立性の4つの原則を示した政策声明である、Policy Statement FCC05-151の採択がなされていた29

その後、いくつかのネットワーク中立性に関するFCCを巡る判決において、FCCの規制権限が問題となった。

具体的には、FCCが、ケーブル事業者であるコムキャストの政策声明違反について決定したところ、コムキャストがFCCの規制権限を争い、命令が無効であるとして争ったところ、裁判所が、FCCの規制権限を否定したものがある30

さらにこの判決ののち、FCCは、2010年にオープンインターネット規則(Open Internet Order)を採択し、透明性、ブロッキングの禁止、不合理な差別化を行わない、といった中立性ルールを定めたが、ベライゾンがFCCに対して訴訟を起こした結果、ブロッキングと不合理な差別化を行わないというルールの部分については無効との判決が下されている31

そこで、この判決も受けた上で、オープンインターネットルールを見直すための新しい政策文書が発表された32

3.2.2015年のオープンインターネットに関するFCC規則

FCCは、2010年の規則が差し戻された状況の中にあっても、オープンなインターネット環境を作ることが非常に重要であるとの認識を変更せず、2014年5月15日に、オープンなインターネットを維持し、さらに推進していくためのパブリックコメントを求める告示を採択している(Notice of Proposed Rulemaking)33

このパブリックコメントを受けた上で、FCCは新しいオープンインターネット規則を採択し、2015年6月12日に施行した34

この規則は、ブロードバンド・インターネット・アクセス・サービスを電気通信サービスと分類した上で、ブロッキングの禁止、スロットリングの禁止、優良優先伝送の禁止、ISPが消費者や上位レイヤー事業者に被害を与えないように一般的な基準を設けるよう、問題のある行いを解決する権限をFCCに付与することと同時に、ISPが適切なネットワーク管理を行うことも許容していた35

3.3.ネットワーク中立性規則の廃止―インターネットフリーダム命令(2017年12月14日)

2017年12月14日、FCCは、ネットワーク中立性規則の廃止案を可決することを決めた36。この決定に対しては、多くの反対の声明などが様々な団体などから出されており、規制が撤廃されることによる影響が問題視されている37

FCCは、インターネットの規制に関する重厚な報告書の中で、規制が必要ないということを結論づけている38

なお、米国におけるネットワーク中立性規制の撤廃が、米国におけるネット利用者にとって、極端に利用料金が高くなるといった形での影響を与えていることはないと考えられていた39

しかし、FCCによる規則の撤廃は、ネットワーク中立性を維持する必要がないという姿勢の表れでもあり、3.4.にみるように、いくつかの州の司法長官はネットワーク中立性規制の廃止を阻止するための訴訟を提起するなどした。

3.4.インターネットフリーダム命令インターネットフリーダム命令(2017年12月14日)の内容

ネットワーク中立性規制を撤回するトランプ政権の手法に対しては、州司法長官が呼びかけて多くの州が参加した訴訟が起きた40

もっとも、ローカル・州レベルでインターネットフリーダム命令の趣旨にそぐわない法規制が制定された場合にはFCCの命令が優先することとなる。FCC規則は、具体的には、これまでの一般行動基準を廃止し、また、オンブズマンなど、2015年命令で新たに導入されたネットワーク中立性に関連した手続きを廃止するものであった。

3.5.22の州の司法長官がネットワーク中立性の廃棄を阻止するための訴訟を提訴

以上にみたように、ネットワーク中立性規制に関しては、2018年1月16日にDC控訴裁判所にFCCを提訴した。これは、ニューヨークの司法長官が呼びかけたもので、そのほかに、カリフォルニア州、コネチカット州、デラウェア州などが参加していた41

さらに、米上院では、ネットワーク中立性規則撤廃を無効とする法案可決 Congressional Review Act などが行われたこともあった。しかし、下院では採決されなかった42

3.6.バイデン政権の成立とネットワーク中立性規則の復活の予定

その後、2021年11月に成立したバイデン(Joe Biden)政権は、ネットワーク中立性に関する43規制を強化する方向であると考えられている。すなわち、バイデン大統領は2021年1月21日に早速、米連邦通信委員会(FCC)の暫定的な委員長代理として、ネットワーク中立性規制の支持者である民主党のJessica Rosenworcel氏を指名したからである。加えてバイデン政権が、国家経済会議(NEC)でテクノロジー・競争政策を担当する大統領特別補佐官として、コロンビア大学のティモシー・ウー教授を起用したことが3月5日に発表された44

このようなバイデン政権の姿勢に照らせば、ネットワーク中立性規制としては、オバマ政権時代よりも規則の内容が厳しくなる可能性がある。

3.7.まとめ

米国におけるネットワーク中立性規制は今後回復する可能性がある。その目的は、取引の透明性を確保し、利用者に選択の自由を確保するというものから45、改めて欧州と類似の規制まで踏み込むかどうか、今後、復活する可能性の高い規制に向けてのFCCのコンサルテーションなどによって明らかとなっていくものと考えられ、注視が必要である。

4.EUにおけるネットワーク中立性の規制の動向46

以下においては、比較のためにEUにおけるネットワーク中立性規制についてもみることとする。

EUは、欧州デジタル単一市場戦略47の一環をなすものとして48、2015年の11月に、ネットワークの中立性に関する新しい規則を発表している49

ネットワークの中立性に関する新規則は、ネットワークの中立性の原則をEU規則に盛り込んだものであり、EU全体のインターネットルールとなることが目指されているものである50

その内容は、ネットワーク中立性を強く保護する方向で定まっている。具体的には、すべてのEU市民がオープンなインターネットへのアクセスを確保されなければならず、すべてのコンテンツやサービスプロバイダーは、高品質なオープンインターネットを通じ、サービスを提供可能とする必要があるとされた。そして、この新規則の発効後は、インターネットの遮断や抑制が、EUにおいては違法となり、たとえば、利用者は、お気に入りのアプリを自由に使用することができるようになるーたとえば、携帯電話会社がSkype、TwitterやFacetimeなどの特定のアプリケーションを排除(ブロック)することなどや、特定のサービスにアクセスする際に追加料金を発生させたりすることは許されなくなるとされた。

また、すべてのトラフィックが同等に扱われることも規則の内容となっている。このことは、たとえば、インターネットアクセスサービスでトラフィックの優先順位付けを行うことはできない、ということを意味しているものである。

このネットワーク中立性に関するルールは、インターネットアクセスプロバイダー(ISP)が、利用可能なコンテンツとサービスを決めることができないことを意味するものである(下記図3参照)。

図3.EUのネットワーク中立性

(出典)(https://ec.europ.eu/digital-single-market/en/news/new-rules-roaming-charges-and-open-internetより抜粋。)

ブロッキングNO、インターネットアクセスプロバイダーによる選別は許されず、すべての欧州市民に、平等なインターネットのアクセス権がある、と記されている。

また、関連する条文の中で一番重要な、オープンなインターネットアクセスの保護を定めているのは以下の第3条である。

第3条 [全訳] オープンなインターネットアクセスの保護51

1.エンドユーザーは、インターネットアクセスサービスを介して、エンドユーザーまたは提供者の位置、もしくは情報、コンテンツ、アプリケーションまたはサービスの発信地、着信地、所在地に関係なく、情報およびコンテンツにアクセスし、またそれらを配信し、アプリケーションおよびサービスを利用および提供する権利を持たなければならない。本項はコンテンツアプリケーションあるいはサービスの合法性に関する欧州連合の法律またはEU法を遵守する国内法に反するものではない。

2.商業的及び技術的条件、または料金、データ量又は速度、インターネットアクセスサービスの提供者によってなされる何らかの商業的慣行といったインターネットアクセスサービスの特性に関するインターネットアクセスサービスの提供者とエンドユーザーの間の協定は、第1項に定めるエンドユーザーの権利の行使を制限しないものとする。

3.インターネットアクセスサービスの提供者は、送信者および発信者にかかわらず、アクセスまたは配信されるコンテンツにかかわらず、利用されまたは提供されるアプリケーションまたはサービス、または利用される端末装置にかかわらず、差別、制限もしくは干渉なしに、すべてのトラフィックを同等に扱うものとする。

 この第一サブパラグラフは、インターネットアクセスサービスの提供者が行う、妥当なトラフィック管理措置の実施を妨げない。かかる措置は、妥当であるとみなされるために、透明かつ非差別的かつ比例的であることが必要であり、また、商業的な考慮ではなく、特定のトラフィック分野における客観的に異なった技術的なサービス品質要件に基づくものとする。そのような措置は、特定のコンテンツをモニターするものではなく、また、必要以上に長く継続されてはならない。

 インターネットアクセスサービスの提供者は、第2サブパラグラフに定める事項を超えたトラフィック管理を行ってはならず、また、特に必要な場合、また以下のために必要な期間を除き、特定のコンテンツアプリケーションまたはサービスを遮断し、遅延させ、変更し、制限し、干渉し、品質を劣化させ、あるいはそれらの間での差別を行ってはならない。

(a) インターネットアクセスサービスの提供者が従うべきEUの法律に従うため、あるいは裁判所ないし関連する権限を付与された公的機関を含めたEU法に従った国内法のために実施されるEU法に従った措置に従う国内法を遵守するため。

(b) ネットワーク、および、そのネットワークによって提供されるサービス、エンドユーザーの端末との統合性とセキュリティを守るため。

(c) 同等のトラフィック分野が同等に扱われる場合いおいては、ネットワークの混雑の発生を回避するため、例外的または一時的なネットワークの混雑の影響を緩和するため。

4.いかなるトラフィックの管理措置も、第三項に述べる目的を達成するために、加工が必要であって、比例的である場合にのみ、個人データの加工を行うことができる。孫化工は、欧州議会及びEU理事会指令95/46/ECに基づいて実施される。トラフィックの管理措置はまた、欧州議会及びEU理事会指令2002/58/ECに基づくものとする。

5.インターネットアクセスサービスの提供者を含む公衆向けの電子通信の提供者、コンテンツ、アプリケーションやサービスの提供者は、最適化がコンテンツアプリケーションまたはサービスの特定の品質水準のために必要な場合、特定のコンテンツ、アプリケーションやサービス、またはそれらの組合せに最適化されたインターネットアクセスサービス以外のサービスを自由に提供できる。

 インターネットアクセスサービスの提供者を含む公衆向け電子通信の提供者は、提供されたネットワーク容量に加えて、それらを十分に提供できる場合にのみ、それらサービスを提供し、または利用することができる。それらのサービスは、インターネットアクセスサービスの代替として利用されたり、あるいは提供されたりしてはならず、また、エンドユーザーに対するインターネットアクセスサービスの利用可能性や一般的な品質を損なうものであってはならないものとする。

以上の第3条をみると、EUのネットワーク中立性に関する規則は、必要な場合の混雑解消などのための一時的なトラフィック管理を含め、一般的なトラフィック管理を認めている。しかし、特定のコンテンツやアプリケーション、サービスへのアクセスの遮断やトラフィックを遅延させる行為(ブロッキングやスローダウン)については禁止をしていることがわかる。

そして、同規則4条は、オープンインターネットアクセスを確保するための透明性対策を定めている。

ただし、コンテンツアプリケーションやサービスの最適化として、ネットワークの容量に余裕がある範囲において、速度や品質の「最適化」が必要と考えられる特定のコンテンツアプリケーションサービスの提供が認められている。また、特定のコンテンツ等へのアクセスやトラフィックについて、事業者やユーザー間において商業的な慣行や協定が結ばれることも、認めている52

4.1.EUの中立性規則について

EUのネットワーク中立性に関する新規則は、ネットワーク中立性の原則をEU規則に盛り込んだものであり、EU全体に適用されるインターネットルールとなることが目指されているものであるし、実際に規則であるからEU全域に適用されるものである。

その内容は、ネットワーク中立性を強く保護する方向で定まっている。具体的には、すべてのEU市民がオープンなインターネットへのアクセスを確保されなければならず、すべてのコンテンツやサービスプロバイダーは、高品質なオープンインターネットを通じ、サービスを提供可能とする必要があるとされた。そして、この新規則の発効後は、インターネットの遮断や抑制が、EUにおいては違法となり、たとえば、利用者は、お気に入りのアプリを自由に使用することができるようになる―たとえば、携帯電話会社がSkype、TwitterやFacetimeなどの特定のアプリケーションを排除(ブロック)することなどや、特定のサービスにアクセスする際に追加料金を発生させたりすることは許されなくなるとされた。

また、すべてのトラフィックが同等に扱われることも規則の内容となっている。このことは、例えば、インターネットアクセスサービスでトラフィックの優先順位付けを行うことはできない、ということを意味しているものである。

このネットワーク中立性に関するルールは、インターネットアクセスプロバイダー(ISP)が、利用可能なコンテンツとサービスを決めることができないことを意味するものである(上記図3参照)53

4.2.Regulation(EU)2015/2120

このように、欧州のネットワーク中立性規則は、ネットワークの中立性を保護するための基盤として機能している。また、この規則によれば、国内の規制当局は、条項の遵守を監視し、差別のないインターネットアクセスサービスの継続的な利用可能性を促進する必要がある。

また、規則はBEREC(欧州電子通信規制者機関)に対し、ネットワーク中立性に関するガイドラインを発行することを義務付けている。

そして、BERECガイドラインは、規則内容を具体化している。具体的には、ゼロレーティング、トラフィック管理規定、スペシャルサービスの提供に対する要求事項、およびインターネットアクセスサービスのプロバイダに対する透明性規定の強化などを規定している。

4.3.コロナ対応とBEREC、ネットワーク中立性

EUはすべての人に平等なアクセスを保障することに重きを置くため、コロナ禍において重要なことは平等なインターネットへのアクセスが保障されることであるとして、ネットワークの通信速度に偏りがなくなるように適宜の調整を行うことといったBERECの推奨文書が作成されていた54

4.4.ゼロレーティングサービスが争われた事例において、欧州のネットワーク中立性規制を保護する欧州司法裁判所の判決

ネットワーク中立性規制に関しては、欧州全域において同様の規制が適用されているところ、ハンガリーのTelenor Hungary社のゼロレーティングサービスが55、上記のネットワーク中立性規則の第3条(オープンインターネットアクセスの保護)に違反しているのではないか、という指摘が行われ、Telenor Hungary 社がハンガリー国内においてハンガリーのメディア情報通信庁を訴えていた裁判において、ハンガリーの高等裁判所が2018年9月に欧州司法裁判所(CJEU)に先行判決を求めていた裁判の先行判決が2020年9月になされている56

その判決によれば、特定のアプリを利用した際のデータの使用量を料金から除き、通信上限を超過しても、特定のアプリについては速度制限を行わない、といったゼロレーティングサービスが、ネットワーク中立性規則の第3条57(平等かつ非差別的な取扱いを定めた一般的義務条項)の(2)と(3)の両方に抵触する可能性があるとされた。

この欧州司法裁判所の判決をハンガリーの規制当局は歓迎しており、BERECも含めてゼロレーティングサービスに対して厳しい姿勢をEUはとるであろうということが指摘されている58

5.ゼロレーティングの具体的問題

ネットワーク中立性と関係する問題として、現在、ゼロレーティングといったサービスの提供が始まっていることが挙げられる59

例えば、2016年9月5日からMVNO(Mobile Virtual Network Enabler)事業を開始したLINEモバイルは、LINEやTwitter、Facebookなどにおいて発生するデータの通信料については非課金とする、ゼロレーティングを打ち出していた60。その後、2019年1月の段階において、LINEモバイル社以外にも、ソフトバンク社、NTTコミュニケーションズ、ケイ・オプティコム、ビッグローブ、ジュピターテレコム、DMM.com、ドリーム・トレイン・インターネット、LogicLinkといった各社が、それぞれ内容は異なるものの、YouTubeやLINE、Twitterといった複数の対象アプリについてゼロレーティングサービスを提供する状況となっていた61

このようなゼロレーティングサービスは、情報の多様性や多元性に影響を与えるサービスとなるかもしれないことが指摘されており、ネットワーク中立性との関係も問題となる。具体的には、トラフィックを差別的に取り扱うことによる、本来はネットワークの中立性によって守られるはずの言論の自由の原則の侵奪が発生し、民主的な参加を損なう可能性があると指摘されている62。さらに、トラフィックの差別的な取扱いは、エンドユーザーのコンテンツの選択を妨げることも指摘されている63

日本においては、「ゼロレーティングサービスの提供に係る電気通信事業法の適用に関するガイドライン(案)」が2020年1月に公表され、そのパブリックコメントが同年1月17日から2月15日まで行われていた64

ゼロレーティングサービスについては、ユーザーに対して透明性と正確性を確保し、合理的な方法で行われるような仕組みをステークホルダー間で調整する必要がある、との指摘がなされているところである65

6.おわりに:今後の検討課題について

ネットワークの中立性についての検討は、各国の実情に合わせて行っていく必要がある66。実際に、これまでにも検討は進められているが、消費される通信量は拡大を続けるばかりであり、コロナ禍もあり、ますます動画配信サービスなどの必要性は高まっており、ネットワーク中立性の確保はより重要な課題となりつつある。そのため、顕在化する問題に対して、随時対応していく必要があるものである。

このように、我が国においてもゼロレーティングを含めたネットワーク中立性規制の検討を臨機応変に行うことは重要な課題となっているところ、特に米国において予想されるネットワーク中立性規制の緩和撤廃と(おそらく同時並行で行われる)オンラインプラットフォーム(市場)規制強化の今後の状況をこれからも注視していく必要がある。また、たとえばEUのようにゼロレーティング規制を含めてネットワーク中立性を強く推進していく立場をとったとしても、トラフィックの調整を図ることはEUにおいても事業者に対して認められている状況の中で、どのような規制が適切なのかといった問題は、我が国にも共通する課題となると考えられる。

ネットワーク中立性の問題を考えるにあたっては、これまで検討されてきた我が国の原則だけに拘泥する必要はないが、インターネットへのアクセスを維持することが、何よりも、民主主義の基礎を支える言論の自由にも関わる重要な問題であることを常に意識して検討を進めていく必要がある。この観点からは、国際社会に対してインターネットへのアクセスを保障することの重要性を、日本において検討するネットワーク中立性規制の方向性とともに国際的に発信していくことも重要である。

また、ネットワーク中立性問題と関連して、プラットフォーマーに対する規制をどうするのかといった新たな問題も生じている。これらについては、ネットワーク中立性の重要性と合わせて引き続き考えていく必要がある。

Footnotes

1 国際基督教大学教養学部上級准教授

2 コロナ禍において、テレワークが推進されることとなったが、同時にネットワーク接続ができるかどうかが大きな問題となった。

3 総務省総合通信基盤局データ通信課「新型コロナウイルス感染症の影響下におけるインターネットトラヒックの推移について」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000692609.pdf)。

4 コロナ禍において通信量は、もともと増加傾向にあった中で、さらに増加した。参照、「国内データ通信量5割増 4~5月、民間調べ」日本経済新聞2020年5月29日 (https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59789790Z20C20A5EA5000/)。参照、前掲注(3) 1-2頁。紹介されているデータによれば、テレワークや学習・余暇のための通信の利用増により、 昼間の時間帯の通信量は大きく増加したことが示されている。実際に、平日の昼間に2割から3割、休日の昼間も1割から2割増加しており、コロナを経験したのちの新たな生活様式の定着も予想されるため、通信量が元の水準に戻ることはないと考えられると分析されている。

5 小向太郎『情報法入門 デジタル・ネットワークの法律(第4版)』(NTT出版,2018年)80頁。

6 実積寿也「ネットワーク中立性問題について」ニュースレター日本ネットワークインフォメーションセンターNo.63/2016年7月(https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No63/0800.html)。

7 Tim Wu, “Network Neutrality, Broadband Discrimination”, Journal of Telecommunications and High Technology Law, Vol. 2, 2003, p. 141.

8 詳細については、林秀弥「『ゼロレーティング』とネットワーク中立性」情報通信政策研究1巻1号( 2017年11月)4頁以下、実積寿也「『ネット中立性』が目指す価値――電気通信事業法のフレームワークを踏まえた考察」情報法制研究8号(2020年)29頁以下。

9 2010年に導入されたFCC規則Part8参照。See, https://obamawhitehouse.archives.gov/net-neutrality.

10 2016年12月19日の選挙人団投票において、トランプ氏が第45代大統領に正式に選ばれた。2017年1月20日より、米国においてはドナルド・トランプ大統領(共和党)となっている。 BBC News Japan 「【米政権交代】トランプ氏,正式に次期大統領に 選挙人団投票」2016年12月20日(https://www.bbc.com/japanese/38375228).

11 The New York Times, F.C.C. Repeals Net Neutrality Rules, https://www.nytimes.com/2017/12/14/technology/net-neutrality-repeal-vote.html.

12 小向・前掲注(5) 81頁。神足祐太郎「ネットワーク中立性をめぐる議論」『レファレンス』803号(2017年12月)82-89頁。

13 寺田麻佑『先端技術と規制の公法学』(勁草書房、2020年)200頁も参照。

14 総務省総合通信基盤局電気通信事業部料金サービス課「報道資料『IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会』の開催」(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/daijinkanbou/051021_2.pdf)。

15 IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会 「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方について- 新競争促進プログラム2010 -(案)」2006年9月(http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/chousa/ip_ka/pdf/060913_2_2.pdf)。

16 総務省テレコム競争政策ポータルサイト (7)ネットワークの中立性の在り方に関する検討(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/eidsystem/program_old07.html)。

17 懇談会は、「我が国はブロードバンド先進国としての地歩を固めつつ,従来のレガシー網からIP網へとネットワーク構造が急速に移行するとともに,これに対応した新しいビジネスモデルが登場するなど市場環境も大きく変わりつつある.このように,ネットワーク構造 や市場構造が急速に変化する中,引き続き,ネットワークを公平に利用し,ネットワークに係るコスト負担が公平に行なわれることにより,ブロードバンド市場全体の健全な 発展が実現することが期待されるところである.そして,こうした公平性(ネットワークの中立性)を確保するため,どのような現状認識や分析の枠組みを持ち,これに基づいて必要となる施策展開を図っていくべきかについて検討することが求められている」という問題意識に基づいてなされていた。「ネットワークの中立性に関する懇談会最終報告書」2007年9月20日2頁。

18 同上、ネットワークの中立性に関する懇談会「ネットワークの中立性に関する懇談会 報告書」2007年9月(http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/283520/www.soumu.go.jp/s-news/2007/pdf/070920_6_bt.pdf)。

19 P2P映像配信モデルや共同コンテンツ配信センターモデルの在り方について具体的な検討が開始された。前掲,総務省テレコム競争政策ポータルサイト(7)ネットワークの中立性の在り方に関する検討(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/eidsystem/program_old07.html)。

20 帯域制御ガイドライン運用基準検討協議会の構成団体は、一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)、一般社団法人電気通信事業者協会(TCA)、一般社団法人テレコムサービス協会(TELESA)、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟(JCTA)(当時)であった。現在は、MVNO協議会も構成団体に入っている。オブザーバーは、総務省電気通信事業部データ通信課、消費者行政課と記されている(https://www.jaipa.or.jp/other/bandwidth/)。

21 インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会 報告書」平成 27 年 7 月(http://www.soumu.go.jp/main_content/000371343.pdf)。

22 総務省平成30年10月5日「ネットワーク中立性に関する研究会」の開催及び提案募集の実施(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban04_02000142.html)。

23 総務省平成30年10月5日「ネットワーク中立性に関する研究会」の開催及び提案募集の実施(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban04_02000142.html)。

24 「ネットワーク中立性に関する研究会中間報告書(案)」に対する意見募集結果」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000613516.pdf)によれば、パブリックコメントには、一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター、LINE 株式会社、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟株式会社、ケイ・オプティコムエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社、NGN IPoE 協議会、Facebook, Inc. そして中部テレコミュニケーション株式会社、一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会、ネットフリックス株式会社(Netflix K.K.)、日本電信電話株式会社、アジアインターネット日本連盟 (AICJ)、匿名希望企業、株式会社 NTT ドコモ、在日米国商工会議所 (The American Chamber of Commerce in Japan)、一般社団法人テレコムサービス協会、KDDI株式会社、西日本電信電話株式会社、東日本電信電話株式会社、株式会社ジュピターテレコム、楽天モバイルネットワーク株式会社、公益社団法人全国消費生活相談員協会、ソフトバンク株式会社、そして個人(9件)の合計32件の意見が寄せられている。

25 ネットワーク中立性に関する研究会中間報告書42頁。のちにみるように、ステークホルダー間の立場の差異を調整し、合意形成に向けた議論が適切に行われるようにする、とされていた。なお、この点については、共同規制アプローチを取る方向性にあるとも説明されている(https://www.dekyo.or.jp/info/2019/07/seminar/6065/)。

26 モニタリング体制に関する整備については、以下の「ネットワーク中立性に関するモニタリング体制の整備について」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000647124.pdf)を参照。

27 電気通信市場検証会議(ネットワーク中立性に関するワーキンググループ)(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/denkitsushin_shijo/02kiban04_04000271.html)。

28 ネットワーク中立性に関する考え方は各国で様々であることや、その背景にはそれぞれ別の視点や目標があることも事実であるが、ぜひ日本も国際的なルールメイキングづくりに積極的に、ネットワーク中立性規制の分野でも関わっていくべきであろう。

29 Policy Statement, Appropriate Framework for Broadband Access to the Internet over Wireline Facilities, FCC-05-151.

30 Comcast Corporation v. FCC, No. 08-129(D.C.Cir. September 4, 2008).

31 Verison v. FCC, Case No. 11-1355 (D.C. Cir. January 14, 2014).

32 FCC Wireline Competition, Notice of Proposed Rulemaking, Protecting and Promoting the Open Internet-FCC Launches Broad Rulemaking On How Best To Protect And Promote The Open Internet, FCC-14-61.

33 Ibid.

34 See, https://transition.fcc.gov/Daily_Releases/Daily_Business/2015/db0312/FCC-15-24A1.pdf.

35 Report and Order on remand, Declaratory Ruling, and Order in the Matter of Protecting and Promoting the Open Internet. https://www.fcc.gov/document/fcc-releases-open-internet-order

36 See News Release, FCC ACTS TO RESTORE INTERNET FREEDOM Reverses Title II Framework, Increases Transparency to Protect Consumers, Spur Investment, Innovation, and Competition, https://www.fcc.gov/document/fcc-releases-restoring-internet-freedom-order.

37 See, https://www.lawyer-monthly.com/2017/03/deregulation-v-net-neutrality-whats-the-future-for-online-content-creators/, Trump's FCC votes to repeal net neutrality, Seth Fiegerman, https://money.cnn.com/2017/12/14/technology/fcc-net-neutrality-vote/index.html, December 14, 2017.

38 FCC17-166, Declaratory Ruling, Report and Order, and Order, adopted, December 14, 2017, Released, January 4, 2018.

39 実際、トランプ政権時代を通して、特にインターネット接続料金がネットワーク中立性規則の撤廃によって高騰したといったニュースはなかったようである。

40 See, Brian Heater, Lawsuit filed by 22 state attorneys general seeks to block net neutrality repeal, January 17, 2018. For the case file, https://ag.ny.gov/sites/default/files/petition_-_filed.pdf.

41 Ibid. その他の州は、ハワイ、イリノイ、アイオワ、ケンタッキー、メイン、メリーランド、マサチューセッツ、ミネソタ、ミシシッピ、ニューメキシコ、ノースカロライナ、オレゴン、ペンシルバニア、ロードアイランド、バーモント、バージニア、ワシントン、ワシントンDC。

42 司法省がカリフォルニア州を訴えるなどのアクションも取られていた。See, https://www.justice.gov/opa/pr/justice-department-files-net-neutrality-lawsuit-against-state-california-0

43 https://www.washingtonpost.com/technology/2021/01/27/net-neutrality-biden-fcc/

44 連邦取引委員会(FTC)の顧問を務めた経験もあるTim Wu教授は、グーグルやフェイスブックなど巨大なオンラインプラットフォーム企業に対し、反トラスト法(独占禁止法)の積極的な適用を主張しており、IT企業にとって厳しい規制を課す可能性が高い。See, Big Tech critic Tim Wu joins Biden administration to work on competition policy, MAR 5 2021, Lauren Feiner, https://www.cnbc.com/2021/03/05/big-tech-critic-tim-wu-joins-biden-administration-to-work-on-competition-policy.html.

45 実積・前掲注(8) 30頁。

46 参照、寺田・前掲注(13)『先端技術と規制の公法学』(勁草書房、2020年)第9章(初出:寺田麻佑「ネットワーク中立性規制の現状と課題について―EUにおける新規則と日本への示唆―」『Nextcom』29号(2017年3月)14-23頁)。

47 European Commission, A Digital Single Market Strategy for Europe, 6 May 2015, COM(2015) 192 final, at 20, Roadmap for completing the Digital Single Market. また、その内容につき、寺田・前掲注(13)『先端技術と規制の公法学』第3章(初出:寺田麻佑「情報通信分野における規制手法と行政組織」,公法研究(有斐閣)78号(2016年)258-267頁。

48 European Commission - Press release, Commission welcomes agreement to end roaming charges and to guarantee an open Internet, Brussels, 30 June 2015. See, http://europa.eu/rapid/press-release_IP-15-5265_en.htm.

49 Regulation (EU) 2015/2120 of the European Parliament and of the Council of 25 November 2015 laying down measures concerning open internet access and amending Directive 2002/22/EC on universal service and users’ rights relating to electronic communications networks and services and Regulation (EU) No 531/2012 on roaming on public mobile communications networks within the Union, OJ L 310, 26.11.2015, p. 1–18.

50 See, https://ec.europa.eu/digital-single-market/en/news/new-rules-roaming-charges-and-open-internet.

51 Regulation (EU) 2015/2120 of the European Parliament and of the Council of 25 November 2015 laying down measures concerning open internet access and amending Directive 2002/22/EC on universal service and users’ rights relating to electronic communications networks and services and Regulation (EU) No 531/2012 on roaming on public mobile communications networks within the Union, OJ L 310, 26.11.2015, p. 1–18.

52 結局、このようなサービスの提供方法については、EUの規則上可能な例外がたくさんあるのではないのかという批判もある。

53 Regulation (EU) 2015/2120 of the European Parliament and of the Council of 25 November 2015 laying down measures concerning open internet access and amending Directive 2002/22/EC on universal service and users’ rights relating to electronic communications networks and services and Regulation (EU) No 531/2012 on roaming on public mobile communications networks within the Union (OJ 2015 L 310, p. 1).

54 See, https://ec.europa.eu/digital-single-market/en/news/commission-and-european-regulators-calls-streaming-services-operators-and-users-prevent-network.

55 Telenor Hungary社は、MyChatとMyMusicというメッセージアプリと音楽アプリについて、ゼロレーティングサービスを提供していた。その内容は、特にMyChatは、6つのアプリ(Facebook、Messenger、Instagram、Twitter、Viber、WhatsApp)の通信料が計算されず、データ上限を超過しても左記の6つのアプリケーションの速度は低下しないとしたものである。また、MyMusicというサービスは、4つの音楽アプリ(Apple Music、Deezer、Spotify、Tidal)とさらに6つのラジオサービスの通信料が料金にカウントされず、さらに、データの上限が超過したのちも、左記の音楽アプリの通信速度は低下しないとしたものであった。

56 See, Court of Justice of the European Union PRESS RELEASE No 106/20 Luxembourg, 15 September 2020.

57 Article 3(1) and (2) of Regulation 2015/2120.

58 Hungarian ICT watchdog welcomes EU courtʼs net neutrality ruling, SEP 16, 2020, https://bbj.hu/politics/foreign-affairs/eu/hungarian-ict-watchdog-welcomes-eu-court%CA%BCs-net-neutrality-ruling.

59 ゼロレーティングサービスの問題の詳細については、林・前掲注(8)を参照。

60 堀越功「LINE支えるNTTコムが語る,ゼロレーティングの実態」テレコムインサイド2016年10月号。

61 総務省資料「ゼロレーティングサービスの提供状況」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000595352.pdf)を参照。

62 Carrillo, A J, Having Your Cake and Eating it Too? Zero-Rating, Net Neutrality and International Law, 19 Stan. Tech. L. Rev.(2016), https://law.stanford.edu/wp-content/uploads/2017/11/19-3-1-carrillo-final_0.pdf

63 林・前掲注(8)23頁以下。

64 「ゼロレーティングサービスの提供に係る電気通信事業法の適用に関するガイドライン(案)」及び「電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン」の改定案に対する意見募集の結果及びガイドラインの公表(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban04_02000164.html)。

65 「ゼロレーティングサービスの今後について」中尾彰宏(「ゼロレーティングサービス」WG資料)15頁。

66 米国におけるネットワーク中立性の議論は、ネットワーク事業者に対する過度な市場支配力の行使を抑制するための手段として提唱された概念(Tim Wu)であり、EUにおいては、エンドユーザーの権利確保を中心に、競争力の基盤としてのインターネットの価値を最大化するための手段として捉えられているとの指摘につき、実積・前掲注(8) 30頁、38頁。

 
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